農地の土壌改良用資材に適した木炭は多孔質で比表面積も200m2/g程度期待できるので、 保水性、排水性などの土壌の物理性の向上が期待できる他、微生物への棲家の提供による微生物性の向上等が期待できます。 土壌の物理性の向上により農作物の細根が発達するようです。木炭の施用で農作物の収量が増加、甘くなった等の影響が現われています。
また、土壌への炭素貯留効果も確認されました。以下の資料(農水省「土壌炭素の貯留に関するモデル事業」平成21年度、「営農活動による炭素貯留量調査」平成22-23年度の成果物)を参照してください。
「営農活動による炭素貯留量調査」平成21~23年度成果(最終とりまとめ)
機関名 NPO法人 環境文化創発支援協会(旧 国土環境保全機構)
全実施期間 平成21~23年度
事業の目的 炭素貯留効果の高い営農活動がもたらす環境保全効果等の便益及びそのために必要な費用等を定量的に評価するため、 実証ほを設置し、土壌中の全炭素、全窒素、営農活動の収益性、労働時間等を調査する。
投入資材は「炭」に特化し、農作物の成分分析を行うとともに、木炭施用の普及に向けた検討を行い、炭素貯留量拡大を目指す。
成果目標の具体的な内容
  • 土壌分析による全炭素量及び全窒素量の測定
  • 営農活動の収益性、労働時間等を調査
  • 炭施用で栽培した農作物の成分分析
  • 木炭生産に係るLCCO2量の調査
実施計画の進捗状況 協議会等の開催 青森地区:1回開催(2012.02)
三重地区:1回開催(2012.02)
調査等の実施状況 計画書通り。但し三重地区は23年度は木炭は施用せずに竹炭を施用。
実証、試験の実施
  • 土壌の全炭素、全窒素分析
  • 収益、労働時間等の調査
  • 農作物の成分分析
  • 施用炭のLCCO2分析
他事業との連携 なし
機関代表者・肩書き 牧野 良治(理事・事務局長)
担当者・所属 並木 裕(炭素貯留技術顧問)
試験場所 青森県つがる市、青森県東北町、青森県おいらせ町、三重県多気町
試験方法 CNコーダーによる土壌分析
営農方法の取組
営農方法の取組
青森県内(つがる市、東北町、おいらせ町)に6試験区、三重県内(多気町)に3試験区、合計9試験区を設置。
つがる市:水稲(転作大豆)、メロン(小麦との輪作)
東北町:水稲、ナガイモ(ジャガイモとの輪作)、ニンニク
おいらせ町:ダイコン
多気町、トマト、次郎柿、施設野菜を対象に原則としてそれぞれ3圃場を設定し、炭施用区2、対照区1とした。
なお、トマトは畝内のみに施用、次郎柿については樹冠下の位置に筋条施用した。
耕種概要
水稲(東北町):5月定植、10月収穫
ナガイモ(東北町):6月定植、12月~収穫
ニンニク(東北町):9月定植、6月収穫
ダイコン(おいらせ町)5月播種、7月収穫
トマト(多気町):9月定植、2月~収穫
秋野菜(多気町):10月播種、2月~収穫
次郎柿(多気町):12月木炭施用、11月収穫
 
21~23年度 成果
1. 営農評価
(「炭施用に関するアンケート調査」「「木炭のカスケード利用」については付属資料参照)
【木炭は高価】
「炭が良いことは昔から判っている。この事業では生産者の資材費負担が無いので施用できるが、自分で購入するとなると高価なので敬遠してしまう。」という感想があった。
一例として、青森県おいらせ町ダイコン畑90aの生産費用合計が260万円であるのに対して、3.9tonの木炭を施用しているので木炭単価は150円/kgであり、60万円近い生産費増になる。
【根圏環境改善効果】
青森県つがる市での大豆(米との輪作)栽培では、炭施用の畑は慣行区と比較して収穫予定期に葉がまだ青々していたので10日間刈り取りが遅れた。 その10日間に充実が進み、大粒の割合が増加した。
小麦(採種圃(品種:北上小麦:メロンとの輪作)栽培では、他の圃場では夏の暑さで実が入らない2等の麦が多く出た中で、高温障害が無かった。 対照区と比較して背が高くなり、2回の圃場審査で審査員から倒伏の可能性も指摘されたが、根がしっかり張っているので倒伏しなかった。
また、昨年度のメロン収穫後に緑肥植物(燕麦)を植えたが、対照区と比較して成長が早かった。
写真-1 成長が早い (写真-1)青森県つがる市内のメロン畑(グライ土)に平成20年5月に木炭を500kg/10a施用。平成21年秋に緑肥作物を栽培。 対照区と比較して木炭施用区での育成が著しく早いことが確認されている。
【甘くなった】
平成22年度に収穫された青森県東北町のニンニク成分分析値と付近の某農協の値を比較すると、 糖分は22.8mg/100gで20.5mg/100gを上回っているが、ニンニク固有の成分であるアリシンは240mg/100gで290mg/100gを下回った。
この畑では糖度の高いニンニクの生産を目指しておりその方針には沿った結果にはなったが、有意差があるかどうかの検討を含め継続調査を行う必要がある。
青森県おいらせ町のダイコンも甘い、肌が白い等の評判を得ている。
昨年度のトマト栽培でも糖分は対照区と比較して上回ったがトマト固有の旨味成分であるグルタミン酸の数値が低下している。
三重県多気町のトマト生産者は「土は上からつくる」との方針で土づくりをしており、「木炭は表層から5~10cm程度までに入れている。 表層に近い細根が発達し肥料分の吸収が良くなる。 木炭を深くまで施用すると直根が発達して水分を多く吸い上げることになるので糖度は低下するかもしれない。」との意見があった。
【農作物の日持ちが長くなる効果】
「トマトは普通、赤くなるのを待たないで収穫してしまう生産者が多いが、ここのトマトは赤くなってから収穫する。 果肉が多いトマトになるので日持ちが長くなると考えている(写真-2参照)」「ダイコンの日持ちが長くなる。葉付きダイコンで売っている。」などのヒアリング結果も得られた。
写真-2 果肉部分が多い (写真-2)木炭施用で表層の根圏環境が改善され糖度が増加、健康で日持ちが良いので赤くなってから収穫されるトマトとその断面(果肉部分が多い)。 2011年2月17日撮影
【水田の表層剥離防止効果】
「水田に水を張っている期間に1週間以上雨が降らない時があり、対照区では悪臭を伴う浮遊物が表面に浮き、水田の水が温まらなかった時があったが、 木炭施用区は同じ時期に悪臭もなく浮遊物も無かった。」とのヒアリング結果が得られた。
【増収効果】
平成21年10月から平成22年7月にかけて栽培された1株当りのトマト収穫個数は対照区の93個/株が木炭施用区では105個/株に増加した。 なお、木炭購入価格はトマト1個分程度なので、木炭施用による増収が期待できる(写真-3参照)。
また、青森県つがる市水田への昨年度分施用に伴う追加ヒアリングでは「昨年度は田植え後の表層剥離が無かったことで対照区の収量600kg/10aと比較して5%の増収になった。」 とのヒアリング結果が得られた。

写真-3 増収効果
(写真-3)トマトへの木炭施用量:340g/株 収穫重量:2%増、収穫個数:13%増
2. 炭素貯留量
平成21~23年度の炭施用量
各圃場で対角線法により土壌をサンプリングしCNコーダーでTC,TN値を測定した。

炭素貯留量:平成21~23年度の炭施用量
3. 農作物の成分分析
木炭施用による経年変化
トマト畑に木炭を施用(500kg/10a)したことによる、トマトの旨味成分である遊離グルタミン酸と遊離アスパラギン酸含有量の変化を右上のグラフに示す。
4. 木炭生産に係るLCCO2量
(「木炭の成分分析」「カーボンオフセット農作物の検討」については付属資料参照)
木炭生産段階のCO2収支
平成21年度に木炭生産段階のCO2発生量を把握する目的で木炭A(付属資料「木炭の成分分析」参照)について、木炭65m3の生産に伴うCO2排出量を燃料並びに電力消費量を基に試算した。
【林地残材の収集運搬・チップ化】
8.0tonCO2
軽油消費:バックホー、クローラ、チッパー稼動
【炭化装置の稼動】
5.6tonCO2
電力消費:キルンの回転動力、乾燥装置ファン動力
灯油消費:始動時の着火、排ガス2次燃焼
軽油消費:チップ・木炭のフォークリフト等による場内搬送
【木炭生産に伴うCO2発生量】
13.6tonCO2/65m3木炭
【木炭65m3に含まれるCO2固定量】
26.8tonCO2
木炭の絶乾重量:0.15ton/m3
木炭の固定炭素割合:75%
固定炭素量:7.31tonC/65m3 ⇒ 26.8tonCO2/65m3
【65m3の木炭のカーボンマイナス量】
13.2tonCO2⇒1.35tonCO2/ton炭(絶乾)
なお、木炭の生産は以下の理由から2次燃焼装置付き内熱式連続炭化装置を使用している。

1.炭化は不完全燃焼である熱分解によって行われるので排ガスの20%は温暖化係数がCO2の21倍のメタンガスが発生するので2次燃焼装置でメタンガスを完全燃焼させる。
2.炭化に必要な熱の供給を化石燃料に依存する外熱式炭化炉は製炭量は多いが炭化時に多くのCO2を発生させるので炭材の一部を燃焼させて必要な熱を得る内熱式炭化炉が適している。
考 察
木炭施用による炭素隔離量の定量化について
CNコーダーによるTN値と土壌の容積重、作土厚から算定される炭素隔離量は、肥料に含まれる炭素成分を含んだ値となるので、 木炭単独での貯留量を特定することは困難であると考えます。
木炭中の工業分析で得られる固定炭素割合(JISM8812)は無機炭素割合に近い数値であり、 施用木炭量(乾燥重量)に固定炭素割合を乗ずることで炭素貯留量が簡易に特定できると考えています。
まとめ
木炭施用による炭素隔離量の経年変化について
CNコーダーによる分析結果と木炭施用による炭素隔離量との有意な相関は見られなかった。 原因としては堆肥等の施用による炭素量が木炭施用による炭素量を大幅に上回っていたことが考えられる。
木炭施用量の拡大について
炭の土壌改良効果を協議会メンバーが実感し、農作業で発生するGHG量をオフセットする試み等で、 農家の経済的負担が軽減でき、更に農作物の増収、連作障害緩和効果が客観評価できれば、 炭施用量は拡大し、結果として炭素隔離量が増大する可能性を確認した。
  • 容積重の測定(ダイコン畑)
  • 容積重の測定(ダイズ畑)
  • 容積重の測定(メロン畑)
  • メロン畑(つがる市)
  • 水稲(東北町)
  • ジャガイモ畑(東北町)
問題点
炭素貯留量定量化手法の精度
施用精度(均一散布、均一耕運、水分含有率)、サンプリング精度(採取場所、均一性)、測定精度(作土厚)などの誤差の積み重なりが懸念される。
要望事項
木炭施用による炭素貯留量定量化手法
木炭中の工業分析で得られる固定炭素割合(JISM8812)は無機炭素割合に近い数値であると考えています。 施用木炭量(乾燥重量)に固定炭素割合を乗ずることで炭素貯留量が簡易に特定できると考えております。
木炭施用効果の広報
土壌改良資材としての木炭の用途は主に透水性の改善として位置づけられていますが、 本事業で木炭を施用してくださった生産者の皆様からは「収穫量が増えた」「冷害に強かった」等、様々な施用効果が寄せられています。
今後、NPO法人 環境文化創発支援協会(旧 国土環境保全機構)でもこれらの多面的効果をホームページ上で紹介する予定ですが、生産者向けの広報活動の一層の推進が木炭施用量増につながると考えております。
木炭施用のクレジット化
NPO法人 環境文化創発支援協会(旧 国土環境保全機構)では、木炭製造段階でのCO2発生量の検討結果を踏まえて、 気候変動対策認証センター様宛てに「2次燃焼装置付内熱式連続炭化炉で生産された木炭中に固定される炭素量」並びに 「木炭の農地施用による炭素の地中固定量」のJ-VERポジティブリストへの掲載提案をさせていただいており、 平成21年に「継続審議とする案件」になりました。木炭施用量拡大に向けて、クレジット化の促進をお願いいたします。
 
付属資料
炭施用に関するアンケート調査:
平成21年度の事業開始に先立って、生産者、学識経験者を対象にアンケートを実施し、炭施用拡大に向けての課題を明確にした。
  • 炭施用で健康な土壌ができれば、農作物は病害虫にも強く、生産量も安定する。
  • 木炭の効果は判っているが高価なので使えない。
  • スポット施用などの新たな施用技術の確立が必要。
  • 共選体制をとる品目では一般のものとの区別が困難。
  • 具体的で透明なデータの蓄積とそれらの広報が必要。
木炭のカスケード利用:
農業排水路の水質浄化に8ケ月間利用されていた木炭を安全性を確認(重金属分析)の上、東北町ニンニク畑の一部(100m2)に施用した。 重金属の分析の分析項目は、Cd,Cr(Ⅵ),CN,T-Hg,R-Hg,Se,Pb,Asの8成分である。
平成21年11月10日に農業排水路に設置した木炭からはPb(4mg/kg)を除き、平成22年7月27日に回収した木炭からはPb(8mg/kg),As(9mg/kg)を除き重金属は検出されず、 検出されたPbとAsの自然的レベルの目安値(出展:環境省「土壌汚染対策法に基づく調査及び措置に関するガイドラインAppendix3」)である 「39mg/kg」「140mg/kg」と比較すると大幅に低い値であり、農地施用に問題は無いと判断している。
また、リン成分は0.014%から0.21%に増加しており肥料成分の回収機能も果たしていると考えられる。
木炭の成分分析:
本調査では3種類の炭(木炭A、木炭B、もみ殻炭)を施用している。それぞれの炭の成分分析結果を以下に示す(JISM8812)。
炭種類 固定炭素 揮発分 灰分 固有水分 生産地
木炭A 74.55% 15.53% 4.42% 5.50% 青森県つがる市
木炭B 87.93% 6.06% 5.25% 5.25% 茨城県常陸太田市
樅殻炭 43.26% 6.29% 49.47% 0.98% 青森県東北町
カーボンオフセット農作物の検討:
平成21年度につがる市でのメロン並びに水稲生産で発生したCO2量と木炭施用に伴うCO2貯留量との比較を行った。 以下にメロン生産についての検討結果を示す。
従って、メロン畑に絶乾状態の重量に換算して250kg/10aの木炭を施用したことで メロン生産段階で発生するCO2の全量をオフセットしたことになる。
なお、木炭0.60ton(絶乾)を30aに施用した水稲生産では、40%程度のカーボンオフセットになっている。
【大気中への温室効果ガス(CO2換算)排出量(10a当り)】
337kg-CO2/10a
耕起作業に伴うCO2排出量:50kg-CO2/10a
肥料の使用によるCO2排出量:233kg-CO2/10a
窒素肥料施用によるN2O排出量:39kg-CO2/10a
農薬の使用による排出量:15kg-CO2/10a
出典:環境影響評価のためのライフサイクルアセスメント手法の開発研究成果報告書別冊
「LCA手法を用いた農作物栽培の環境影響評価実施マニュアル」
(独立行政法人農業環境技術研究所/平成15年11月)
【木炭施用によるカーボンマイナス量】
1,350kgCO2/ton炭(絶乾)
【木炭施用量】
250kg/10a
絶乾状態(絶乾嵩比重0.15
施用時嵩比重0.30
【木炭施用による土壌へのCO2隔離量(10a当り)】
338kg-CO2/10a
木炭散布による融雪効果
平成23年2月につがる市内で積雪上に500g/m2の木炭を散布して7日間放置し、融雪効果を確認した。
炭素貯留量バックデーター
容積重
  容積重(-) 作土厚(cm) 面積(a) 作土重(ton) 備考 場所
施設トマト 0.75 5 14 52.5 3年間共通 三重県多気町
施設野菜 0.72 18 10 129.6
次郎柿 0.70 11 10 77.0
メロン 0.95 18 20 342.0 小麦との輪作 青森県つがる市
水稲 0.62 16 30 297.6 転作大豆
水稲 0.85 15 30 382.5 3年間共通 青森県東北町
ニンニク 0.98 17 30 499.8
ジャガイモ 0.83 15 30 373.5 ナガイモの裏作
ダイコン 0.75 30 30 337.5 木炭は15cm おいらせ町
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